反復性四肢痛
こどもは器質的疾患を認めないのに頭痛、腹痛、四肢の痛みを反復して訴えることがあります。このような痛みは『くりかえし病』と呼ばれたり、四肢の痛みの場合、成長に伴って起るとの観点から『成長痛』と呼ばれることがあります。しかし成長に伴って痛みが起ることはないとの主張もあり、このような痛みをどのように呼ぶのが適切かについては未だに定まった見解はありません。 小児科領域では反復する腹痛などと同様にこのような痛みは『心因性疼痛』と考えられていますし、私もそのように考えています。
症状の典型的なおこり方は、夕方から夜間、深夜にかけて膝から下腿にかけて(膝の裏の疼痛を訴えることも多いです)鈍痛を訴えます。親が近くにいて抱いたりさすったりしてかかわっていると短時間で痛みは消失し、決して翌日まで痛みを持ち越すことはなく、翌日は全く何事もなかったかのように元気に遊んでいるのが特徴です。最初は親も「甘えているのかな」と考えますが、あまりに痛みを訴える頻度が高かったり、痛みの訴え方が激烈であると(実際、猛烈に強く痛みを訴えることがあるのです)心配で医療機関を訪れることになります。医療機関を訪れた時にはたいてい症状は消失しており、診察所見にもなんら異常は認めません。痛む時間は夜間帯だけでなく授業中など昼間のこともあります。
まず、診断が大切です。すなわち本当に心配のない反復性四肢痛で、重大な疾患が潜んでいないかということです。こどもが下肢を痛がる疾患はペルテス病などの股関節疾患や、まれに白血病などの悪性腫瘍の場合があり得るからです。しかしこれらの心配な疾患の場合は必ず跛行(びっこ)があります。これは痛みのないときでも見られるのです。しかも症状は持続あるいは悪化します。激烈に痛みを訴えた後で何事もなかったかのように普通に走り回るようなことはまずあり得ません。
さて、治療ですが、基本的に病気ではありませんので特別な治療は必要としませんが、こどもにとっては親になんらかのメッセージを送っていることが多いことを理解しなければなりません。例えば最近自分よりも兄妹に両親の関心が多くいくようになったなどの環境の変化にこどもは敏感です。親子のスキンシップの時間を以前よりも意識的に多くとることで解決の糸口がつかめることが多いようです。
また、この『心因性疼痛』というものを理解することが大切です。私はよく外来で、痛みは最終的には脳で感じるのだから心が痛みを起こすことはなんら不思議なことではないこと、決してこどもが『嘘』をついているのではないことを強調します。痛みの訴えを通してのメッセージの伝え方はこどもの正常の発達過程で正常に見られることだからです。こどもが『嘘』をついていると捉えて対処すると時に親子関係がいっそう混乱してしまう恐れがあります。 大切なことは親がこの病態を理解し、医師も余計な検査でこどもに病的意識を植え付けることのないようにすることです。