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先天性股関節脱臼

先天性股関節脱臼

小児整形外科の最も代表的疾患で、約1000出生に1人くらいの頻度で見られます。女児に圧倒的に多いことが特徴で、原因としてホルモンの関係や遺伝の関与、子宮内環境や出生後の因子などが考えられていますが、まだよくわかっていないことが多いです。原因が単一ではなくいろいろな要素が複合して発症するのは間違いないようです。

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予防について

先天性股関節脱臼は、先天性という名前が付いていますが、四肢の奇形などのような胎児のときから確定している疾患とは少し違います。 胎内から明かに脱臼している例も極稀にありますが、ほとんどは脱臼しやすい状態の胎児に出生前後のなんらかの原因が加わって脱臼が発症します。 これは言い換えれば予防が可能な疾患であるということを意味します。 先天性疾患が予防できるというのは少し奇異な感じがすると思います。

従ってアメリカではずいぶん以前から先天性股関節脱臼(congenital dislocation of the hip)という言い方をやめて、発達性股関節脱臼(Developmental dislocation of the hip)と呼んでいます。 予防活動については私たちの大先輩である京都の石田勝正先生が伏見地区において抱き方やおむつ指導を行なって、約10年間で先天性股関節脱臼の発生頻度を10分の1に減ったという素晴らしい業績があります。この業績は日本が世界に誇るすばらしい成果です。 わたしたちのクリニックでは先天性股関節脱臼の看護および指導に経験の豊富な看護スタッフが正しい予防法についてご指導致します。お気軽にご相談下さい。

検診について

どのような検診システムが理想的なのかについてはいろいろな意見があります。早期発見・早期治療という観点からすれば出生直後の検診が重要のように思えますが、先天性股関節脱臼が本当の意味での先天性疾患とは少し異なっていることから、出生直後は脱臼がはっきりしていないのに2-3か月頃に脱臼が明かになってくる例が少なからずあります。

また先天性股関節脱臼は必ずしも早く治療すればよいというものではありません。 私たちの研究によると、3か月検診の頃が、症状もはっきりしているので見逃しが少ないことがわかりました。また、3か月(4か月)検診は現在市町村の制度にシステムとして組み込まれており、股関節のためだけに新たに検診制度を構築する必要もありません。私たちが滋賀県の特定の地域を対象に行なった調査では3-4か月検診をきっちり行なうことで見逃し例はまったくありませんでした。また3-4か月頃に治療を開始したことで、治療が困難になったり、将来追加手術が必要になるようなことはありませんでした。

治療方針

先天性股関節脱臼の程度には大変個人差が大きく軽症例から重症例まで存在します。 従って決してこれらを同じように(十把一絡げに)扱うことはできません。 私たちは前任の滋賀県立小児保健医療センター時代から先天性股関節脱臼を程度によって分類し、タイプごとの治療方針を決めて治療を行なってきました。 この結果、程度の軽い脱臼には簡便な治療法を(場合によっては経過観察のみ)、重症の脱臼には入院を含めた治療を行なっています。
先天性股関節脱臼には次のようなタイプがあります。

1.脱臼準備状態(borderline Subluxation)

股関節の開排制限があるために検診でひっかかりますが、X線像で異常なく、超音波検査でわずかな不安定性が見つかる程度のものです。 このタイプは厳密には脱臼のタイプ分けには含めなくてもよいかもしれません(その意味で、ボーダーラインという呼び方をすることがあります)。 このタイプで多いパターンは、生まれつき首の向き癖があり、首の向いている方と反対側の股関節に開排制限がある状態です。しばしば体幹の歪みを伴っています。この歪みのために骨盤が傾き、検診で下肢長が違うと指摘されることも多く見られます(実際は長さの差はないが、測り方によって見かけ上長さが違って見える)。このパターンは『子宮内圧迫症候群』と呼ばれる、胎内で窮屈な状態を強制されていたことで起る状態が原因であるとの説もありますが、はっきりしたことはわかっていません。 このタイプでは原則として治療は行なわず、経過観察のみとしますが、赤ちゃんが自由に動くことを妨げないようにしなければ徐々に正常化します。まれに開排制限が持続する場合、股関節の発育に問題を起こす恐れがあるため、リーメンビューゲルによる治療を行なうことがあります。

2.亜脱臼

亜脱臼とは関節軟骨同士の接触は保たれているが、肢位によって適合性が悪くなる股関節のことです。適合が悪くなる肢位はたいてい股関節伸展位で、開排位にすれば求心性は良好であることが超音波検査で確認できます。臼蓋(股関節の屋根)の発育に悪影響を及ぼしX線像で臼蓋形成不全があったり、大腿骨の位置の異常(シェントン線の乱れなど)があったりします。このタイプではリーメンビューゲルによる治療が適応となります。

3.脱臼

股関節を開排位にしても求心性が不良な関節です。求心性は悪いながらも、関節軟骨同士の接触がかろうじて保たれている、亜脱臼に近いもの(Type AII)か、あるいは完全に脱臼しているがクリックにより接触のある状態になるもの(Type B+)があります。このタイプでは、リーメンビューゲル法での整復には成功するのですが、リーメンビューゲル法による治療で過去に骨頭壊死の発生を少数ながらも経験したのはこのタイプでした。 現在では、入院の上、開排位持続牽引法を行うようになり、骨頭壊死の発生はほぼゼロになっています。

4.高度脱臼

股関節の軟骨同士の接触はいかなる肢位でもありません。開排位では骨頭は後方に完全に外れてしまっており、整復操作をしても整復されることはありません。リーメンビューゲル法での整復成功率は極めて低く、開排位持続牽引整復法が適応となります。

5.特殊な脱臼

検診の見逃しなどで生後6か月を過ぎてから発見された脱臼は特別な配慮が必要です。たいていの場合、完全脱臼です。リーメンビューゲル法の成功率は極めて低く、開排位持続牽引整復法が適応となります。 さらに悪いタイプは、脱臼が正しく診断されていたにもかかわらず、不適切な初期治療を受けていた場合です。最も治療が難航します。 開排位持続牽引整復法を行ないますが、数カ月の治療を要することがあります。

リーメンビューゲル法について

リーメンビューゲルというのは股関節脱臼の治療に用いるあぶみ付きのバンドです。これはチェコの医師、Pavlikが考案したため、パブリック帯(Pavlik harness)とも呼ばれています。 1960年頃に故鈴木良平先生により日本に紹介されました。当時、我が国では乳幼児股関節脱臼の治療はローレンツ法と呼ばれるギプスでの非常に手のかかる、しかも合併症の率の高い治療を行なっていましたので、リーメンビューゲル法はその簡便さと合併症の率の低さからすぐに広まりました。 現在ではほとんどの施設で、乳児股関節脱臼治療の第一選択となっています。

リーメンビューゲル法

開排位持続牽引整復法

リーメンビューゲル法はかつてのローレンツ法などに比べると股関節脱臼治療を根本的に変えました。 しかし、中には少数ですが整復が得られない症例もあり、骨頭壊死も数%に見られました。 わたしたちは滋賀県立小児保健医療センターにてどのような脱臼がリーメンビューゲルにて整復が得られないのか、またどのような脱臼が整復はされても骨頭壊死という悲惨な合併症をきたすのかを調査しました。その結果、高度の脱臼ではリーメンビューゲルでの整復率は低いこと、骨頭壊死は軽度から中等度の脱臼がリーメンビューゲルにて整復された場合に起りやすいことを発見しました。それ以来、事前に超音波検査やMRI検査などで脱臼の程度を分類し、骨頭壊死の起りやすいタイプやリーメンビューゲルでの整復が期待しにくいタイプには特殊な牽引法により超音波ガイド下に徐々に整復を行なうことにしました。 これが開排位持続牽引整復法です。 上の『わたしたちの治療方針』のところで御紹介した分類で言えば、『脱臼』以上の例に開排位持続牽引整復法を適応します。 これまでの開排位持続牽引整復法の成績は、整復率100%、骨頭壊死発生率0.6%と極めて良好です。 この治療法は入院が必要です。 入院の上、以下の5段階によるステップにより正しい整復を行ないます。

第1段階

水平牽引を行ない、拘縮した筋肉の緊張を緩和します。

第1段階

第2段階

開排位にて牽引を行ない、ずれた骨頭の位置を臼蓋(骨頭の入るべき受け皿)の方向に向く様にします。 これで整復の準備が整います。

第2段階

第3段階

この段階は徐々に整復を行なう段階で、開排位持続牽引整復法で最も重要なところです。超音波ガイド下に整復を確認しながら行ないます。

第3段階

第4段階

整復位が安定すれば、ギプス固定を行ないます。安定性が良ければこの段階をとばして、リーメンビューゲル装着の第5段階に移行することもあります。

第4段階

第5段階

リーメンビューゲルを装着し、下肢の運動を促します。 年長児の場合、リーメンビューゲルでなく、開排装具(右の写真)を用いることがあります。

第5段階

ギプス対応の改造バギー

ギプス対応の改造バギー

治療の合併症について

先天性股関節脱臼の治療で最も重要なことは骨頭壊死を起こさないようにすることです。骨頭壊死を起こすリスクをおかすくらいなら、外れたままでおいた方が良いくらいです。 骨頭壊死は股関節の整復に伴って起ります。整復時に赤ちゃんのデリケートな骨頭に血流の障害をおこし、骨頭の一部、あるいは大部分に壊死をおこしてしまうのです。軽度の壊死の場合、成長とともに骨頭が良好に再生してくることもありますが、一生残ってしまうような股関節の変形を起こす場合もあります。 そのような場合、一生跛行が残ってしまい、将来人工関節置換術が必要になることもある重大な合併症です。わたしたちはこのような悲劇的な問題を残す骨頭壊死を根絶するために開排位持続牽引整復法のような手間ひまのかかる治療法を考案して実践してきたわけです。 もう一つ、股関節脱臼に伴う重要な問題は臼蓋形成不全です。これは股関節の臼蓋部(屋根に当たる部分です)の形成が悪く、股関節の安定性が不十分な状態と考えると良いでしょう。 関節は正しく運動することにより正しく発育しますが、脱臼していると、骨頭と臼蓋はお互いに独自の発達をしてしまいます。

従って臼蓋が丸い骨頭を覆うように正しく発育することが阻害されるわけです。脱臼を正しく整復すると、その段階から正しい股関節の発育が始まるわけですが、乳児期に治療を始めれば大概は臼蓋の発育が追いついて正常の股関節になります。しかし、治療開始時期が遅くなるほど臼蓋の発育は不足気味となりやすく、5歳前後までに正しい臼蓋の発育が得られない場合は手術が必要となる場合もあります。 この手術は骨盤骨切り術(ソルター手術)という手術で、安全性や治療成績が確立した手術です。臼蓋の被覆を手術により獲得することにより、股関節の正しい発育が期待でき、将来完全に正常な股関節となります。